三、ツアーその後に |
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夜闇、その中にある更なる闇に今日も踏み込む。 私のこれ以上ない楽しみがこの先に眠っている。 今はもう亡きものと認識されている建物の中にいる。 ランタン型のライトで辺りを照らし、地下へ潜る。 隠されたスイッチを押すと、死んだと思われていた明かりが復活する。 廃墟とは無縁の施設を思わせるほど中は綺麗に整っている。 実験室に入ると、違和感があった。とても細かい違和感だ。 机に指でなぞったような線。私はこのような跡は決して付けたりはしない。 つまるところ……何者かが侵入したという事に外ならない。 私は焦燥感に駆られ、「保管庫」に向かう。 「保管庫はここからさらに下だ。もし、それが何者かに発見されたとなれば危険だ。 慌てて勢いよく「保管庫」のドアを開ける。 被験者の女が怯えた目でこちらを見ている。足を鎖で繋がれて逃げられないようになっている。鎖は長いので同室に備えられた便器での用便には苦労しないはずだ。 置いていた「餌」は朝と昼の分は開いているが、夜の分はまだ閉じたままだった。 「誰か、来たか?」 私はそれだけ声をかけた。女は首を横に振る。 「そうか」 誰からも発見されてないのなら、ひとまず安心だ。しかし油断はならない。 私は落ち着いて振り返り「保管庫」を出ようとする。 「お、お願い……もう帰らせ、て……」 女が弱々しい声で懇願してくる。 「少しでも生きて帰りたいと願うなら、餌を喰うといい」 重厚な鉄のドアを、閉じる。 獣のような泣き声が、奥から聞こえた。 |
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