十一、第二回心霊ツアー |
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目的地の民宿に到着したのは早朝だった。 思ったより早く到着してしまった。 佐々木さんの会社の保養所で、民宿というよりプチ旅館みたいな感じだ。 朝早かったが、民宿の旦那さんは笑顔で歓迎してくれた。 取った部屋離れた形で二つ。当然男女で分かれる。 篠本は残念がっていたが無理なものは無理だ。何故か定本も不満そうだったな。 荷物を置いて、男部屋を拠点とする。 各人装備の確認作業を行う。 バッテリーとメモリの数が大量にあった。丁寧にも、それぞれに円ラベルが貼られ、番号が記されている。 確かにこれだけあれば撮り漏らしはないし、管理も楽だ。 これらも全部篠本案だとか。やるな。 各人が持つべきは懐中電灯とトランシーバー。念のため電池パックも用意。 携帯は……圏外だな。やはり山奥となると電波が届かないんだなぁ。 篠本の方に目をやると、携帯をいじっている姿がある。キャリアの違いだろうか、篠本のは電波が届くのか。 男部屋にみんな集合し、ツアーの確認を行う。 人数がいるとは言え、危険な行動であることは変わらない。 ましてや心霊現象が対象だ。不可思議な事が起きて全員行方不明などの事態に遭遇しないとも言えない。 綿密な打ち合わせは、とても重要なのだ。 出発は、昼食後だ。 生い茂る森林の中、カメラを手にして歩くみんなを映す。 気分はピクニックで、情景もそれとは変わらない。 「篠本、何か見えるか?」 トランシーバーを手に話しかける。 先陣を切る篠本がまるで登山でもするかのような格好で大手を振る。 『今のところは異常なし!』 「そうそう簡単には出ないでしょー」 隣でキャリアカートを引いている定本が苦笑する。 「我らの本番はむしろ学校に入ってからだ。それまではただの山道だな」 後ろから地図を広げて正確に軌跡を記録する佐々木さん。ちゃっかり例の聖石を携帯している。 ここで迷子になってしまったら最期、俺たちはこの小さな樹海を抜け出せなくなってしまうのだ。 「これから行く廃学校って戦時中に消えたところだっけ」 「……空襲で孤立化」 荷物を抱えた今岡さんが言い、杓子を手にカートの中にある粉を地面に撒く大谷ちゃんが補足する。 今回の目的地はまさにそこだ。 シチュエーションで言えば今回もヤバめである。前回が何も起こらなかったから期待のし過ぎに注意だが。 役割分担はこうだ。 俺、カメラ撮影 篠本、先行調査 佐々木さん、マッピング 女性陣は粉カート引き、粉撒き、バッテリー等の荷物持ちを交代で行っている。 ちなみに粉撒き、これも篠本のアイデアだ。 ヘンゼルとグレーテルの童話はご存知だろう。あれと同じようなことをしているのだ。つまりは軌跡のマーキングだ。 風もない森林地帯で、粉を点に撒くことではぐれたとしてもそれを辿れば出口へ行けるという算段だ。 粉は小麦粉を使うことで環境にも優しいという配慮だ。 『お地蔵さん発見』 トランシーバーから、篠本の報告が聞こえてくる。 「地蔵……だな、と」 地図とは別にメモ書きをする佐々木さん。わずかでもランドマークチェックは欠かせてはならない。 粉と同じように、命綱代わりなのだ。 『……見えた! 廃校舎があったぞ!』 興奮する篠本の声だ。程なくして、俺たちの前に古い木造の大きな建物が立ちはだかった。 歩いてだいたい三十分くらいか。かなり深く入り込んだとは思う。 広いブルーシートを敷き、釘で四隅を固定する。 シートを囲むように大谷ちゃんの黒魔術で結界を張り、気休め程度であろうが、安全地帯を確保する。 中央にカメラの三脚を立てて上にランタン型の電灯を乗せる。ガムテープで倒れないように固定する。 各自荷物を置き、六人で円陣を組む。 「みんな、準備はいいかい?」 一斉に頷く。 ここでリーダーシップを発揮するのは篠本。みんなの安全を配慮し、過剰すぎる用意で細い命綱を強固にしてきた。 「これから先は正直にヤバい場所だ。心霊現象っていう不確かなものを相手に俺達は挑む。確実に危険というわけでもないが、安全も保障できない」 前回とは打って変わってツアーの安全に全力を注いだと言っても良い。 何が篠本をそうさせたのか不明だが、俺はその一心に安心感すら覚えた。 しかし同時に思う、篠本は何かが起こる前提で準備したのではないかと。 あまりにも周到すぎる用意に、佐々木さんも内心疑っているだろう。 ただ廃校舎に潜り込むだけにしては、確かに厳重すぎるから。 ついに二度目の心霊ツアーが始まる。 これから入り込む木造の建物を見る。 物々しい雰囲気に、俺は息を呑んだ。 |
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